人と住まいの健康

ブログの作成に当たり、資料本等を確認していたところ”我が意を得たり”

と いう文章に遭遇したのでこの話から始めます。

まず始めに、人間生活の基本条件として、

「徒然草」第123段では四つのことを挙げています。

 

「徒然草」

 

 「思ふべし、人の身に止むことをえずして

営む所、第一に食ふ物、第二に着る物、

第三に居る所なり。

人間の大事、この三つには過ぎず。

ただし、人皆病あり。病に冒されぬれば、その愁い忍び難し。

医療を忘るべからず。薬を加へて、四つの事、求め得ざるを貧しとす。

 

 

 

 この四つ、欠けざるを富めりとす。

この四つの他を求め営むを奢りとす。

四つの事倹約ならば、誰の人か足らずとせん。」

【※1】


※〔注釈〕人間にとって大事なことは、衣・食・住 の 三つであるが、健康を考えれば 医療・薬も大事なのですよ、という訳です。

     心とからだの健康は、住まいと密接な関係にあります。

 

    〔徒然草の時代の薬は、今 現代に置き替えると、予防医療ということになるのでしょうか(薬は薬として)。住まいに

     求めるものが ”やすらぎ” とするとそのような造りにしなければなりません。ストレスの解消を図れるように。〕


「方丈記」

 

タゞ、仮の菴ノミ長閑クシテ、恐レナシ。

ホド狭シトイヘドモ、夜臥ス床アリ、昼居ル座アリ。

一身ヲヤドスニ不足ナシ。

【※2】

 

 この世で一番大事なのは、心が安らかであるかどうかである。

もし、たえず安らかならぬ心の状態なら

宮殿・楼閣に住んだとて空しく、もし草庵にいても心安らかならそのほうがずっといい! 


※〔注釈〕草庵の暮らしは生の形態としては最小限のもので、不便きわまりないから、そこでの生を惨めにするのも ゆたかにするのも

     ひとえに住む者の心の持ちようにかかっている。

 

そもそも、なぜ 人は やすらぎ を求め

何を以て やすらぐ住まい は健康にいいのだろうか!?

 すなわち、自然を求める行動は、緑の自然、なかでも見通しの良い草原、疎開林型の空間がなくなったのが直接の原因で生起され、

究極の原因はやすらぎが失われてきたからであり、進化のレベルでは外敵防衛と結びついていたからであるということができる。

つまり、自然を求める行動を引き起こす直接要因は、 緑、なかでも見通しの良い草原・疎開林型の自然の減少であり、究極の要因は

やすらぎの低下である。さらに、それをもたらしたのは、進化のレベルでは外敵防衛に起因して結びつきが形成されたためであると考えられる。                                                    【※3】

人の視覚の件

 人間の目は、無限に近い波長の電磁波のうち、わずかに400ナノメーターから750ナノメーターの間の電磁波の世界しか見えない。

それも、紫色から赤色までの波長域のうちで最もよく見えるのは

緑の部分(波長域 556ナノメーターのところ)である。

 

 人間の目は、太陽エネルギーそのものではなく、太陽エネルギー

が緑の植物にいったん反射してから目に入ってきたエネルギーに

規定され淘汰された結果でき上ったと考えられるとのこと。

 

 人間が生きるうえで緑がよく見えることは、食物として重要な熟した果実の赤や橙もよく見える(補色の関係)ということである。

 

 逆に考えると、食べてもらう存在の食物たちも生きるために

目立つ補色関係の色になってきたのであろう。

 

 ヒトの目の構造が外界の環境と不可分の関係ででき上ってきた

ことがわかります。                【※3】

ヒトと自然(緑の空間)

 ヒトと自然の間には進化のプロセスで形成された強い結びつきがあるらしい。

 

 結びつきはそれ以外にも

聴覚、味覚、嗅覚も進化の過程で生きることを通じ、結びついて

一体化していることがしだいに明らかになってきているようです。

 

※川のせせらぎの音はよい音とされている。

心地よいと感じるのも、生命を維持するためには水が不可欠な

ものだからである。                【※3】 


やすらぎのある 住まいと健康

 「健康」の反意語を「ストレス」とすると、「健康」を保つためには「ストレス」を溜めないことが肝心である。 【※6】

※WHO(世界保健機関)

 「健康とは、肉体的、精神的、そして

社会的に完全に良好な状態であり、単に

疾病や虚弱さがないというだけではない」

と定義されています。


都市における緑の効用

━ 身近な緑がもたらす心身の健康と人間らしい生活 ━

 ヒトがなぜ、緑でやすらぎ、癒され、外傷の痛みすら軽減するのかは未だ解明されていない。

 

 ドイツの実存哲学者 O.F.ボルノーは、

人が正しく・人間らしく住まうという視点から、庭の役割とあり方を語っている。

 

 「人は、かつて、自らがその一員であった自然の中で示されるリズムを身体に備えており、庭の自然が示す四季のリズムに同調してリフレッシュし、日々の生活で落ち込むストレス状態から回復することができる。」としている。

 住まいの内外、都市空間のあちこちに

用意される緑が、人が心身ともに健康に

過ごすための必需品であることを示唆し

ているといえないだろうか。  【※7】


「山川草木悉皆成仏」

わたしたち、日本人の心の奥底に流れている思想・宗教とは

 仏教でも、神道でもなく、狩猟採集文化が根底にあり、その上に農耕文化がかさなっている。

 

 それは、日本人の生活のなかにうまく溶け込んでいて、習俗化している。

「生きとし行けるものはすべて同じ生命である。とくにその生命の信仰の中心は木である。そして生命はみな死んでまた蘇る。

死んであの世へいってまた帰ってくる。

そういう循環をくり返している。

それは自然の姿でもある。」

 

 この考え方が、現代の日本人の根底にも根強くあります。

 

 

 日本の仏教の特徴を最もよくあらわしている考え方に”山川草木悉皆成仏”という考え方があります。

人間ばかりか動物はもちろん、山や川や草や木も、すべて成仏できるというものです。

 これは、前述の日本の土着の信仰に非常に近い考え方です。

 

 

 わたしたちの祖先は、永い時間(仮に、

人類の歴史を100万年とすると99万年)を

かけて狩猟採集文化をDNA(遺伝子)に

刻み込んできたのです。

 

 

 

 

 今、時間からみればほんの一瞬(農耕牧畜文化発明以来まだ1万年ほど)の知識や技術や制度では、人に必ずしも安心を与えられません。

 自然や動植物と共生し、緑を身近に感じて生きることで心の安定が得られるのでは

ないでしょうか。       【※5】


住まいの健康

人が呼吸するように 住まいにも呼吸(内外共)は必要です

 木造住宅では湿気による木材の収縮に対応できる納まりが必要になります。

外壁が防火対策上、及び、構造上なかなか

架構木材を表しとできない現在、せめて内側だけでも呼吸できるように計画する必要があります。

 

 架構木材を乾燥させることは、木材の腐朽を防ぎ、カビの繁殖を防止し、建物の耐久性を大きく向上させます。

 

 又、建物及び設備等のメンテナンスのためにも建物周囲は空間を確保し、風が抜けるように計画しましょう。


ある老教授の意見

 日本の住居は庭園ばかりでなく、家屋も自然にたいして同化しようとしているのです。西欧の家屋が外部に対して内部を閉じ、自己防衛的、閉鎖的であるのに対し、日本家屋は広い開口部を設けて

自然に向かって自己を開放しています。

 

 

 

 

 

 日本の気候が温和だからできることですが、われわれはそういう自然と一体になった住居を理想としてきたのでした。

 

 だからそれは草庵の思想の延長といってもよかったでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 内部にも閉鎖空間を作らず、襖あるいは障子といった自由な

間仕切によって区切られるだけで、ふだんはそれでも解放され

家の中全体が外の自然とつながりあっています。

 

 風も光も自然はその表情をそのまま家屋の中に持ち込み、人は

家の中にいても自然の変化をともにできるのです。

 

 

 われわれの祖先は自然と同化し、自然の中にあってその幽気に

ひたることを好んだのです。            【※4】

 

 

 

 

 

 

 「山川草木悉皆成仏」につながりますね!

 


「身体が資本」

健康資本:生きていく上で最も重要な資本

(私たち個人が健全に生活するための「健康」も資本だとする考え方があります。)

 高齢化が加速する中、わが国では、国民一人一人が生涯を通じて働くことができる健康状態をいかに維持していけるかに大きな関心が集まっており、政府も労働者の健康増進のための様々な法整備や企業による健康経営の推進に力を入れている。こうした背景には、労働者の健康増進は、増大する医療費の抑制だけでなく、生産性の向上にもつながるという発想がある。健康は、人間の幸福を規定する要素として不可欠である。【※8】

 

 「国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると、就業者の健康状態は傷病(病気やけが)で現在、約三人に一人が病院に通いながら働いている状況である。【※8】

 

 Grossman(1972)モデルでは、個人が使うことができる総時間は健康ストックに依存するとされ、その健康ストックは加齢とともに消耗していくものの、投資をすることによって減耗を少なくし、ストックを補填することができる。

(健康ストックは所得の獲得や生産活動に費やすことができる総時間を規定する。そして、個人は、生産活動から効用を得るが、全ての生産活動には時間が必要であり、その時間の長さは健康であることに依存すると考える。私たちの身体自体も経年とともに体力も落ち、体力を維持するための投資が必要になる。)

 したがって、健康診断を受けたり、栄養をとったり、運動など健康管理に気を付けるような健康投資の時間を設けることは、健康ストックを増やし、結果として将来の生産活動に使うことができる健康な時間を増やすことにつながる。【※9】

 つまり、学校で勉強することによって将来より多くの生産が可能になるという意味で教育が人的資本投資であることと同じように、健康になるために現在の時間を投資として使うこともまた、将来の生産活動に使用することができる時間を増やすという意味で人的資本投資とみなすことができる(これを、健康資本投資と呼ぶ)。

 

 こうした考え方に基づけば、健康(=寿命)は天から与えられたもの(外生変数)ではなく、人的資本投資という行為を通じて維持・補てんすることも可能な、内生変数と位置づけることができる。このモデルでは、加齢とともに減耗していく健康ストックを健康資本投資によって補てんすることで生涯の生産可能時間を増加させるという意味で、健康が生産性を向上させるという合意につながっている。

 

 「人は、教育と同様、健康に対してもその時々に投資を行い、健康資本を蓄積し、労働に携わり、賃金を得る」というものです。つまり、教育と同じように健康に投資して、健康資本を増やすことが収入の増加にもつながると考えることができます。

私たちの人生も、「健康でいられる時間」を増やすことで生涯収入や幸福度を高めることができるということです。【※9】


最近のニュースから

2021.01.24 森林浴で「ストレス対処力」アップ

筑波大学、森林総合研究所が発表

森林浴習慣は労働者のストレス対処力を高める可能性がある

 わが国では働く人のメンタルヘルス不調が大きな問題となっています。メンタルヘルス不調は発生を予防することが重要と考えられており、ストレスにうまく対処できる力(ストレス対処力)がどのような生活習慣と関連するかについて、多くの研究がなされています。その中で、森林浴など自然との触れ合いがメンタルヘルスに良い影響を与える可能性が注目されています。

これまでの研究から、一回(数時間)の森林浴をした場合、リフレッシュ効果などがあることが数多く報告されています。

しかしながら、勤労者が森林浴を習慣として行った場合のストレス対処力との関連については明らかになっていませんでした。

 本研究チームは、筑波研究学園都市内の研究者など労働者を対象とした研究を行い、森林散策や緑地散歩の頻度が高いほど、ストレス対処力が統計的に有意に高いことを明らかにしました。

この結果は、年齢、最終学歴、世帯年収といった個人特性や、運動や喫煙といった他の生活習慣の影響を考慮しても有意となりました。

 わが国は国土面積の約3分の2が森林で占められており、都市公園や公共施設緑地等の整備も進められています。今後の研究では、森林浴習慣によるストレス対処力への長期的な効果を明らかにしていくことが重要と考えられます。


筑波大学 笹原 信一郎 准教授    

森林総合研究所 森田 えみ 主任研究員

2021.04.20 ブログ『薬屋のおやじのボヤキ』を久し振りに読んで!

高血圧の話はもう終わりにしませんか、そして高血圧の薬を飲むのは止め!

(2016.8.13 改題)

 「健康で長生きしたかったら、食養生と適度な運動 そして

こころのストレスの上手な抜き方、この3つをバランス良く、無理しない範囲で、自分なりにうまく見つけ出すことでしょう。

 いずれも相当に難しい課題ですが、これをクリアするしか他に

方法はないと、つくづく思うようになったこの頃です。」

(※ほんの一部ですが抜粋しました。)



参考文献

【※1】「徒然草」 吉田兼好

【※2】「方丈記」 鴨長明

【※3】「ヒトと緑の空間」 品田 穣

【※4】「清貧の思想」 中野 孝次

【※5】「日本の深層」 梅原 猛

【※6】「緑と健康」に関する研究とその動向 飯島 健太郎

【※7】「都市における緑の効用」

    ー身近な緑がもたらす心身の健康と人間らしい生活ー 下村 孝

【※8】健康資本投資と生産性 黒田 祥子(早稲田大学教授)

【※9】生産に必要な人的資本には、教育や技能スキルだけでなく健康も

    含まれることを明示的に示した Grossman(1972)